なぜ海底ケーブルが狙われるのか #
世界のインターネットトラフィックの大半は、海底ケーブルという物理的な「配管」を通っている。だが近年、この配管への攻撃が急増している。バルト海では2023年以降、ロシアの「影の船団」に関連するとみられる船舶がいかりを引きずり複数のケーブルを切断。台湾近海でも中国船籍の貨物船によるケーブル損傷が繰り返され、紅海ではフーシ派の関与が疑われる切断も発生した。国家が絡む"物理層への妨害工作"とも呼べる事態が常態化しつつある。
「陸揚げ地点の分散」という防御策 #
AWSが発表した新しい太平洋横断ケーブル「Sta'O'Nuk」の特徴は、単なる高速化(420Tbps)にとどまらない。従来の主要ルートに集中しがちだった陸揚げ地点を新たに分散配置し、特定の海峡や港湾に依存しない設計を採用した点にある。これは軍事・インテリジェンスの世界で言う「集中リスクの排除」そのものであり、一本のケーブルや一つの陸揚げ拠点が攻撃・災害で失われても迂回路が生き残る構造を狙ったものだ。稼働は2029年を予定している。
クラウド大手が"国家インフラ"を担う時代 #
海底ケーブルはかつて通信キャリアやコンソーシアムが敷設するものだったが、近年はAWS・Google・Metaといったクラウド事業者自身が専用線を持つ動きが加速している。自社のクラウド需要を賄うためだけでなく、地政学リスクへの耐性を自ら設計に組み込む必要に迫られているからだ。もっとも、陸揚げ拠点を分散しても、船舶によるいかり引きずりのような「ローテク」な妨害工作までは防げない。むしろ攻撃対象となる拠点が増える分、監視と早期検知の重要性はむしろ増す。日本でも2026年5月に総務省が海底ケーブルの多ルート化方針を示しており、物理層のセキュリティは国内外で共通の課題になりつつある。
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