VLAN (Virtual LAN) は、1 台の物理スイッチを論理的に複数のネットワークへ分割する技術。同じスイッチに挿さっていても、VLAN が違えば互いに直接は通信できず、ブロードキャストも届かない。配線を増やさずに「部署ごと」「サーバ用」「来客 Wi-Fi 用」「IoT 用」といった分離を実現でき、セキュリティ・性能・運用の柔軟性を一度に底上げできる。本稿では VLAN の目的 / アクセスとトランク / 802.1Q タグ / VLAN 間通信にルータが要る理由 / セキュリティ論点までを扱う。
VLAN とは — 物理は 1 つ、論理で分ける #
ふつうスイッチに繋がった機器は全員が同じ「ブロードキャストドメイン」に属し、互いに丸見え。VLAN は、そのスイッチのポートをグループ分けし、別グループ同士を「あたかも別のスイッチ」のように切り離す。
物理ビル (スイッチ) は 1 つだが、内装の壁 (VLAN) で「営業フロア」「経理フロア」「来客フロア」に仕切る。同じフロアの人同士はすぐ話せるが、別フロアへ行くにはエレベーターと受付 (ルータ) を通る必要がある。壁はソフトウェア設定だけで動かせるので、レイアウト変更が一瞬。
なぜ使うか — 分離・性能・柔軟性 #
アクセスポートとトランクポート #
VLAN を理解する鍵は、スイッチのポートに 2 種類あること。
| 種類 | 役割 | タグ |
|---|---|---|
| アクセスポート | PC やプリンタなど1 つの VLAN に属する端末を繋ぐ | なし (untagged) |
| トランクポート | スイッチ間 / スイッチ–ルータを繋ぎ、複数 VLAN をまとめて運ぶ | あり (802.1Q tagged) |
端末は自分が VLAN に属していることを知らない (普通の Ethernet を喋るだけ)。VLAN を意識するのはスイッチで、アクセスポートで受けたフレームに「これは VLAN 10 ですよ」という印を付けてトランクへ流す。
IEEE 802.1Q タグ — フレームに VLAN ID を埋める #
複数 VLAN を 1 本のトランクで運ぶには、各フレームが「どの VLAN のものか」を示す必要がある。それが IEEE 802.1Q タグ。Ethernet フレームの送信元 MAC の直後に 4 バイト挿入され、その中の 12 ビットが VLAN ID (1〜4094)。
# 通常の Ethernet フレーム
[ 宛先MAC | 送信元MAC | EtherType | ペイロード | FCS ]
# 802.1Q タグ付き (トランク上)
[ 宛先MAC | 送信元MAC | 802.1Q tag (4B) | EtherType | ペイロード | FCS ]
└ TPID 0x8100 + PCP/DEI + VLAN ID(12bit)
トランクの出口でないアクセスポートから端末へ出すときはタグを外すので、端末側は普通のフレームしか見ない。なお、トランク上でタグを付けない 1 つの VLANを「ネイティブ VLAN」と呼ぶ (後述のセキュリティ論点に関わる)。
VLAN 間通信 — 別ネットワークなのでルータが要る #
ここが頻出の勘違いポイント。VLAN が違う = 別の IP ネットワーク (別サブネット)。L2 では絶対に直接通信できない。VLAN 10 (192.168.10.0/24) と VLAN 20 (192.168.20.0/24) を繋ぐには、L3 の機器 (ルータ or レイヤ 3 スイッチ) が必要。
VLAN 間に必ずルータ (= フィルタを掛けられる地点) が挟まるからこそ、「VLAN を分けてから、その間の通信を ACL / ファイアウォールで絞る」というセグメント設計が成立する。
セキュリティ — VLAN ホッピングと分割設計 #
VLAN は分離の道具だが、設定を誤ると越境される。代表が VLAN ホッピング。
| 攻撃 | 手口 | 対策 |
|---|---|---|
| スイッチスプーフィング | 端末が自らトランクをネゴシエートし全 VLAN を覗く | DTP 無効化・アクセスポートを明示 |
| ダブルタギング | タグを 2 重に付け、ネイティブ VLAN を悪用して別 VLAN へ送り込む | ネイティブ VLAN を未使用 ID に・トランクで全タグ必須化 |
VLAN は便利な論理分離だが、設定ミスや L2 攻撃で破られうる。本当に強い分離が要る境界 (例: DMZ と内部、OT と IT) は、VLAN だけに頼らず物理分離やファイアウォールを併用する。VLAN 間にルータがある利点を活かし、必要な通信だけを ACL で許可するのが基本姿勢。
ゼロトラスト的な発想では、VLAN によるマイクロセグメンテーション(細かく割って通信を最小許可にする)が侵害時の被害拡大を抑える要になる。[[arp]] スプーフィングのような L2 攻撃も、VLAN を小さく割るほど影響範囲を限定できる。
まとめ — 押さえる 5 点 #
- VLAN は 1 台のスイッチを論理的に分割し、別 VLAN を別ネットワークとして隔離する L2 技術。
- ポートは アクセス (1 VLAN・タグなし) と トランク (複数 VLAN・802.1Q タグあり) の 2 種類。
- 802.1Q は Ethernet フレームに 4 バイト挿入し、12 ビットの VLAN ID (1〜4094) を運ぶ。
- VLAN が違えば別サブネット。通信にはルータ / L3 スイッチが必須 (router on a stick / SVI)。
- VLAN ホッピングに注意。強い境界は VLAN 単独に頼らず FW・物理分離を併用する。